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◎「Less is more」と「美の用」(一日目/広島②)

清政さんから聞いたとおり、Cite’はとても素晴らしかった。

ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉「Less is more」の和訳には諸説あるようだが「より少ないことは、より豊かなことである」と解釈しておけば凡そ間違いないだろう。即ち、余計なものとは決別し、自分にとって最も大切なものに焦点を当てる…、これが「Less is more」の哲学だと思う。僕はCite’に、そんな気配を感じていた。

店内には、〝感覚を豊かにし、消費されずに長く残るもの〟を基準にセレクトされたオブジェクトが整然と並んでいた。さながら美術作品を展覧する『画廊』のような風情。〝道具として機能すること〟を大前提としない、所謂、巷で乱立するステロタイプな〝ライフスタイルショップ〟とは完全に逸脱した商品構成。だからこそ、ここには「手垢が付いていない新しい情報(=価値)」がある。

オブジェクト同士の関係性を丹念に編集しレイアウトに落とし込んだ思考の、微かな痕跡をなぞっていると、見覚えのあるプロダクトが目に入った。「枯れ落ちた枝が下の枝にひっかかり、ゆらゆらと揺れている情景」…そこからインスピレーションを得たというモビール「IN THE SKY」(写真上)。実はこの日の前日、福岡の鈴懸本店でデザインしたご本人、二俣さんからプレゼントに頂いたばかりだったから、思いがけない場所で地元の友人に出会ったような気分だった。

オーナーの鈴木良さん、真実さんご夫妻ともお話させていただいた。とても穏やかで気さくな笑顔のお二人で、緊張感のある空間とのギャップが可笑しかった。自己紹介をすると、なんとPERMANENTをご存知だったようで…。そして、僕らの旅の話に及ぶと「鳥取砂丘へ行くなら、レンズに砂が入らない工夫を」との御指南を頂戴した。

さて、実は、Cite’を出た後で分かったことがある。それは写真に写っている木製の黒い輪っか。その美しい円形のフォルムが妙に気になって、お店にいる間、何度も眺めていた。それが小山さんの作品だった。知らないうちに彼とゆくりなき邂逅を果たしていたのかと思うと、自然に笑顔がほころんでしまった(右側にある木目が美しい丸い木の器も彼の作品)。

軽井沢で活動する木工作家・小山剛さんに会ったのは4年前の2012年。香川県で開催された第一回目の瀬戸内生活工芸祭に行った時のことだ。そこで見た木製の黒い楽茶碗の素晴らしさに感動して、サンドイッチを頬張っていた小山さんに思わず声をかけた。今となっては何を話したか全く憶えてないのだけれど、多分、お互いの自己紹介をして、それからSNSで友達になった。その後、しばらくして2013年に冊子を創刊した時『鼻が鳴る』という記事で紹介した、牧野伊三夫の「画家の鍋」を家で作ったと連絡を貰った。本当に嬉しくて、とても感慨深かった。

今はInstagramでもフォローし合っており、先週「政ちゃん」のお好み焼きをポストしていたら「僕も来月、広島です」とコメントをくれた。そんな感じで、時々、メッセージのやり取りをしながら緩やかに繋がっている。

あの「輪っか」は一枚板から削りだして、刃物で仕上げ、その後、漆を塗っているのだそうだ。そんな手の込んだ仕事をやってのけながら「輪っか」なんて名前をつける辺りが、飄々としていて小山さんらしい。彼はそれを「美の用」だと発言していて、なるほど、そう言われてみれば確かに「美の用」だと思った。いつか小山さんがいる軽井沢の工房を訪ねてみたい。(つづく)